【完】君しか見えない
数歩歩いて、私が立ち止まったことに気づいた楓くんも足を止め、こちらを振り返る。
「十羽?」
私はそらすことなく、楓くんの瞳をまっすぐに見すえた。
「次の場所に着いたら、私、楓くんに話さなきゃいけないことがある」
「え?」
「だから、」
そこまで言いかけた時だった。
「おーい! 三好!」
だれかの走る足音とともに、聞き覚えのある声に私は身を固くする。
うそ、こんな時に……。
そんなことには気づかず、楓くんが声が聞こえてきた方を振り返る。
「げ、黒瀬じゃん」
楓くんと同様に私もそちらを振り返れば、ラフな洋服に身を包んだ黒瀬くんが立っていた。