【完】君しか見えない
「あ、ありがとう」
足が地面に着くと、体を離しつつお礼の言葉を口にする。
でも、なんでか顔は上げられなくて。
すると、楓くんが「ん」と短く返事をして、校舎の方へスタスタと歩いていく。
その足音に気づき、私は顔を上げた。
「え、楓くん?」
思わず呼び止めると、楓くんが涼しい顔でこちらを振り返った。
「なに?」
「なにって、そっち校舎だけど……」
帰り道は反対方向だ。
きょとんと突っ立っていると、怪訝そうな表情を向けられた。
「行くんだろ。
十羽が言ったんじゃん。
もう柵越えたし、しょうがねぇから付き合ってやるよ」
「楓くん……」
『とわちゃん、僕の手につかまっててね。
ぜったいに僕が守ってあげるから』
そう言って、怖がりな私の手を何度も引っ張ってくれた、その後ろ姿を思いだす。
やっぱり優しい。
やっぱり──好きだ。
「……ありがとう!」
私は顔を綻ばせ、声を張り上げると楓くんの後を追った。