【完】君しか見えない


「あ、ありがとう」



足が地面に着くと、体を離しつつお礼の言葉を口にする。


でも、なんでか顔は上げられなくて。



すると、楓くんが「ん」と短く返事をして、校舎の方へスタスタと歩いていく。



その足音に気づき、私は顔を上げた。



「え、楓くん?」



思わず呼び止めると、楓くんが涼しい顔でこちらを振り返った。



「なに?」



「なにって、そっち校舎だけど……」



帰り道は反対方向だ。



きょとんと突っ立っていると、怪訝そうな表情を向けられた。



「行くんだろ。
十羽が言ったんじゃん。
もう柵越えたし、しょうがねぇから付き合ってやるよ」



「楓くん……」



『とわちゃん、僕の手につかまっててね。
ぜったいに僕が守ってあげるから』


そう言って、怖がりな私の手を何度も引っ張ってくれた、その後ろ姿を思いだす。



やっぱり優しい。


やっぱり──好きだ。



「……ありがとう!」



私は顔を綻ばせ、声を張り上げると楓くんの後を追った。







< 32 / 360 >

この作品をシェア

pagetop