円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
色ボケ男の腕に抱かれて、
壁のすみに追いやられている
メイドの顔を見て、
ウィリアムは凍り付いた。
「ブラッドリ―卿ですって?」
まぎれもない。エリノアの声だ。
もうダメだ。
こいつ、殺してやる。
ウィリアムは、
こぶしにぐっと力を入れる。
彼が目の前の男を、
殴り殺さずに済んだのは、
幼いころからの教育のおかげだった。
何しろ、貴族の子供は、
感情を表に出すなと教育されるのだ。
「いったい、
こんなところで何をしているんです」
ルーカスが、主人の我慢が限界に
達しているのを察知して、
レフリーのように先に声をかけた。
ウィリアムが、怒りをぶつけて
何かする前に、
後ろにいたルーカスが、
さっと主人の前に回り込んだ。
懸命な彼は、
トーマスと主人の間に入った。
「何って、素敵なビリヤード場だろう?
案内してもらいに来たんだ」
トーマスが呑気に答える。
ウィリアムは静かに言った。
「どうぞお引き取り下さい。
ここはメイドと二人きりになる
場ではありません」
「ブラッドリ―卿?」
トーマスは普段見たことがないほど、
冷たい言い方をする相手の様子を見て、
これは従った方がいいと思った。
「少し、おふざけが過ぎますね。
メイドはあなたの自由になる
道具ではありません」
「わかった。わかった」
トーマスは、メイド服を着た
エリノアから手を離すと、
またねと声をかけて出て行った。