円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
屋敷の方から、誰か歩いてくるのが
見えた。
トーマスが振り返って言う。
「多分、ブラッドリー卿だ。
僕が君のメイドから話を聞いた時、
一緒にいたもんだから。
心配して来てくれたんだ」
エリノアは、一目見てこっちに向かって
くるのがウィリアムだと分かった。
侯爵は、悠然と馬車に近づいてくる。
「ジョン、さっさと馬車を出して」
ジョンが御者席から振り返って言う。
「侯爵様に黙って行ってしまって
いいのか?」
「構わないわ。
早く医者に見せなくては。
侯爵に説明してる暇はないもの」
「じゃあ、行くよ」ジョンが言った。
ブラッドリー卿は、エリノア達が慌てて
出発するとは、思っていなかった
みたいだった。
彼は、ジョンが御者席に乗り込んでも、それほど急いだ様子はなかった。
ブラッドリー卿が、馬車のところまで
もうすぐという時、ドアは閉められ、
馬車は突然走り出した。
ウィリアムは、エリノアのすることを
見てショックを受けた。
彼の目には、横たわったミーガンの姿は
見えていなかった。
彼の目には、トーマスとエリノアが
慌ててどこかに行こうとしている
風にしか見えなかった。
どうして、目の前で、締め出すような
真似をするのか。
どうして、目の前で逃げるように
出て行こうとしたのか?
彼の頭に浮かんだのは、
このままエリノアが帰ってこないかも
しれないということだけだった。
そう思うと、身がちぎられる思いがした。