円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~



アリスが慌ててサロンに
やって来た時、
ウィリアムは、トーマスとビジネス
の打ち合わせをしていた。

ビジネスの重要なやり取りの最中で、
緊張したやり取りが続いていた。

トーマスから、もう少し提供してもらう
資金を増やしてもらいたい。

それには、どうしたらいいか。
寝ないで考えていた。

ウィリアムが眠れない理由は別な
ところにあって、気を紛らわすために、

仕事のことを考えていたのが真実であるが、彼はそんなことは、
おくびにも出さなかった。

そんな緊迫した空気を、アリスが間に
入ってきて壊してしまった。


最初、ウィリアムは、いらついた眼で
アリスを睨んだ。


でもすぐに、ウィリアムは、アリスの
様子が普段通りではないのに気が付いた。

彼女にしては、めずらしく息を切らして
いるうえに、ずいぶん慌てている。

それに、一番気に入らないのが、
アリスは、礼儀上挨拶をしたものの、

すぐにトーマスのもとに歩み寄って、
他のものに聞こえないように
耳打ちしたことだった。

『何の用だね?』

アリスの様子が普通なら、ウィリアムは
そう尋ねただろう。

だが、彼女は、トーマスにだけ聞こえる
ように耳打ちした。

アリスがそのようにした理由は、
一つしかない。

彼の個人的なことなのだろうと、
ウィリアムは、何事かと追求したい
気持ちをぐっと抑えた。


侯爵とあろうものが、アリスを問い詰めて客人の秘密を暴くわけにもいかない。

それでもウィリアムは、トーマスが
何か言ってくれるかと期待した。

でも、期待は外れた。彼はとても、
そんなことに気を使えるだけの余裕は
なく、顔色を変えてすぐに立ち上がった。

「ブラッドリー卿、急用ができました。
仕事の話は、またにしていただけますか?」

トーマスはそう言うと、アリスの後に
ついて行ってしまった。

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