円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
ウィリアムは、だだっ広い屋敷を
呪いながら、ジョンが馬を引いて行った
方向に走って行った。

屋敷をぐるっと回った。

まさか裏庭に出るとは思わなかった
から、ずいぶん遠回りしてしまった。

彼がエリノアの家の馬車を見つけた時には、トーマスとエリノアが馬車の横で
立っていた。

二人は、馬車の前で話をしていた。


ウィリアムは、大声を出して二人を
止めたかった。

はやる気持ちを落ち着かせてこれから
なすべきことを考えていた。

彼らは、どこかに見物しに、出かける
だけかもしれない。

エリノアが黙ってどこかに行くはず
はない。

家族にも、実の姉にも、誰にも打ち明けずに、そっと遠くへ行ってしまうはずはない。

それなら、どうして相談して来ない?

トーマスに何か頼まれたのか?

トーマスに頼まれたからと言って、
一言も告げずに、どこかへ行こうと
したのはなぜだ?

考えれば、考えるほど悪い方に、
思考がいってしまう。


トーマスが先に馬車に乗り込んだ。

エリノアは、彼を先に乗せると
振り返った。

そして、偶然ウィリアムの方を見た。

エリノアは、ウィリアムとしっかりと
視線を合わせた。

ウィリアムは、エリノアが待っている
ものだと思って疑わなかった。


ところが、彼女は彼には、目で合図も
せず、儀礼的な礼もしなかった。

ただ何も言わずに、馬車に乗り込み、
そのまま彼の目の前から
走り去ってしまった。

いったい、どういうことだ?

自分を避けて行った。

あの、エリノアが何の相談もせず、
行ってきますの一言も言わず、
目の前から消えてしまった。


ウィリアムは、しばらくその場に立ち
尽くした。

どうして、黙って行くのだ?

誰にでも言えるような場所なら、
決して隠したりはしないだろう。

今までなんでも相談に乗って来たと
いうのに。

彼女のことなら、何でも知っていると
自負していたのに。

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