円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~
ウィリアムは、部屋に戻るとまんじり
ともせず、ずっと窓の外を見つめていた。

街道を走って行ったのなら、今頃どの
あたりだろうとぼんやり考えたりした。


ドアがノックされ、彼の友人のエリオットが部屋に入って来ても、気が付かない
ほどウィリアムの心は、どこか遠くに行っていた。

エリオットは、部屋の中に入って来た
のに、まるで気が付かないみたいに、
じっとしている友人に声をかけた。

「トーマスとの話し合い、上手くいったのか?」

「いいや」
ウィリアムは、うわの空で答えた。

エリオットは、驚いた。

まとまらなかった?

もし、商談が不首尾に終わったりしたら、すぐにでも次の対策だと言って、
ところかまわず呼び出すではないか。

エリオットは、何かあったのだろうかと
心配した。

「いったい、どうして今日に限って
そんなに無関心なの?」

エリオットは、平静を装って話しかける。

気位の高い侯爵様は、疑問に思ってる
なんて見破られたら、すぐに口を閉ざしてしまうだろう。

「まあ、そういうときもあるさ」

「どうして。朝あった時は、
あれほど自信満々だったじゃないか」

ウィリアムは、窓の外を見ながら言う。

「急用ができたと言って、出て行った
から」

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