円舞曲はあなたの腕の中で~お嬢様、メイドになって舞踏会に潜入する~

ウィリアムは、支度を整えながら、
彼の着替えを手伝うために
後ろに立っているルーカスに言った。

ルーカスは、侯爵家の執事だ。

もともと裕福な家の出だけれど、
次男である。

家は、長男が継いだので、彼は上流社会のしきたりを覚えるために、
侯爵家に働きに出ていた。

ルーカスは有能であるけれど、
彼がこれほど早くに執事になれたのも、
実家の力のおかげでもある。

ルーカスは、上流階級のマナーよりも
ビジネスの片腕として、
ウィリアムの役に立っていた。

ウィリアムも、
ルーカスのような頭の柔軟な男と
仕事ができるのを喜んだ。



「ビリヤード場?なんでまた、
トーマス・オマリーがそんなところに?」

ウィリアムは、部屋に戻って
外套を脱ごうとしたところだった。

彼は、コートを受け取ろうと
待ち構えていたルーカスに
向かって言った。

「さあ、理由までは、存じませんので」

「だって、あそこは今頃、
掃除でもしてる時間じゃないのか?」
ウィリアムは、面倒なことに
ならなければいいがと思った。

「掃除は、すでに終わっております」

ウィリアムは、素晴らしく
察しのいい執事に了解したと頷いた。



ビリヤード場は、喫煙室も兼ねている。

男性客たちがゲームをする部屋だった。

一人で煙草を吸いにビリヤード場へ?

多分、そういう目的で
ビリヤード場に行くわけじゃないのは
明白だ。


「わかった。ルーカス。
知らせてくれてありがとう」

トーマス・オマリーは、
アメリカ人の資産家で、
ウィリアムの事業の投資をして
もらっている。

ウィリアムは、
プルームズベリーに、
もっと大規模な産業を興したいと
思っている。

大きな工場を建て、労働者を呼び込む。

そのためには、工場まで鉄道を引きたい。

それには、莫大な資金がいる。

オマリー家は、
アメリカでも鉄道事業に実績があった。

なので、ここしばらく、
ウィリアムは、プルームズベリーが
いかに魅力的な投資先かを、
実際に見てもらっていたのだ。



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