24歳、恋愛処女
「ごめん、彩夏。
連れてきといてあれだけど、もう帰って」

膝の上でつかれた両肘、堅く握り合わせた手の上に額がつくほど丸まった背中はまるで泣いているようで、悲しくなった。
頼りなげに震えるその背中におそるおそるふれると、びくりと大きく一度、跳ねた。

「……なにが、あったんですか?」

「……」

「なにを、焦っているんですか?」

寒そうな背中を少しでも暖めたくて、そっと抱きしめる。
安堵したかのように大きく吐き出される息。

「……前に祖母が、入院しているって話しただろ?」

「はい」

確かに以前、聞いた。
入院している祖母にお嫁さんの顔を見せてあげたくて少し焦ってる、って。

「ミスを犯した日の前の晩、心臓発作起こして倒れたんだ。
気が気じゃなくて、仕事も手に着かなかった。
一命は取り留めたし、ここのところは安定してたから安心してたんだ」

ふぅーっ、大きく吐き出される、息。
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