24歳、恋愛処女
「上司の知り合いなんです。
プライベートで会うこともあるから、可愛がってくれてて」

少し誤魔化しはしたけど、嘘はついてない。

「へえ、だからなんですね。
一応このあいだ、二村さんと食事に行くことを報告したんですが、変なことしたらタダじゃおかないって凄まれました」

苦笑いの荻原さんに私も苦笑いしてグラスを口に運ぶ。
嘘笑顔じゃない、感情の見える顔。
こっちの方が親しみやすくて好き。

 
共通の話題は乏しいから、なぜかビルの管理人の、田中さんの話をしたりする。

「知ってます?
田中さん、今度、お孫さんが生まれるらしくて、いまから爺莫迦になってるの」

「そういえば僕も、虫歯菌が移るから孫とキスしない方がいいのか、なんて真剣に相談されましたよ」

田中さんは、あのビルに勤めてる人にとっては癒やしだ。
こっそり田中さんに、悩み相談に行く人も少なくない。
ちなみに田中さんはただ黙って聞いてるだけで、なにかアドバイスをくれるわけでもないんだけど。
それだけでもすっきりするから、いいみたい。
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