24歳、恋愛処女
入ると、ここでもさりげなく私を上座に座らせる。
嫌みがなくて自然だし、こんなことでとやかく云って険悪になるのも面倒なので黙ってる。
お鍋の準備ができるまで、お酒と、適当に頼んだおつまみを摘んで待つ。

「そろそろいいんじゃないですかね」

「そうですね」

私が鍋から具材を取るのを、荻原さんは待っている。

いつも、そう。
取り分けるのは各自でやるが、私が先。
気を使われるのは嫌だが、荻原さんにとってはそれが普通そう。
というか、取り分けてくれるのも、取り分けることを強要されるのも嫌だから、各自勝手にってしてくれるのは非常にいい。

「モツ、ぷりぷりですね」

「ほんとだ、おいしい」

目が合うと、にっこりと笑う。
クリニックに通い始めた頃は、嘘の笑顔が嫌いだと思っていたけれど。
プライベートで会うようになってからは感情を出してよく笑う。
しかもなんだか、とっても嬉しそうというか、幸せそうというか。

「柚胡椒つけたら、さらにいいですよ」

「ほんとですか?」
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