空に咲く花とキミを
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「おい、華」

「え…っ?」

「え?じゃねーよ。次行くぞ、次。」

つまようじをくわえながら、赤い顔をした直くんが言った。

あたしが酎ハイを2杯飲んだのに比べ、直くんはビールを5、6杯は飲んでいた。

寮の近くにあるこの焼肉屋さんに着いた時、新しい生活に乾杯とか言ってたくらいだ、だいぶ機嫌がいいのだろう。

ここで断ったら何を言われるかわかったもんじゃない……あたしは素直に従うことにした。

運悪く、寮から焼肉屋さんまでの間にスナックを見つけてしまった直くんは、そこへ入っていった。

60歳前後の夫婦が営むそのスナックは、あたしがバイトしていたお店とは違い、落ち着いていてアットホームな雰囲気だった。

「ありがとう。おやすみ、また来てね」

お店のママに見送られる頃にはとっくに日付も変わっていて、直くんはあたしの支えなしでは歩けないくらい酔っていた。

何とか寮までたどり着き、敷いた布団に直くんを寝かせる。


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