《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~
「えっ、ええ!? ほんとうですか?」

 若い頃にどこかの厨房で調理をしていたと言う話を以前ユージーン本人から聞いた事はあった。だがそれが王宮の厨房だとは思ってもいなかった。

「ええ、彼の料理の腕ははとても素晴らしいでしょう? 腕利きの調理師なんですよ」

「知りませんでした…! 今度マスターに聞いてみます」

「ふふ、是非そうしてください。では参りましょうか」

「…っはい」

 通り抜ける際、何人かの調理師がコルトに話しかけていたが迅速に回答し指示を出すと早々に厨房を抜けて吹き抜けの空間に出る。続いて長い廊下へ出た。
 大きく切り取った窓が連なり、そこから差し込む西陽が何本もある柱の影を伸ばす。もう少し暗くなれば壁に設置されている照明たちに光が灯るのだろうか、などとさして重要では無い事を考えながら足を進める。その度に磨き抜かれた床に靴音が響いた。

(なんて広くて大きな建物……)

 スズランは落ち着きのない心臓を宥める為に何度も深呼吸をした。
 廊下をまっすぐ進み、また吹き抜けの空間に出るとそこから更に螺旋状の階段をぐるりと登る。そして今度は柔らかい絨毯の敷かれた広い廊下を進んだ。一人ではたちまち道に迷ってしまいそうな規模の建築物に気後れしてしまう。
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