A・O・I
小走りで戻って行く足音が聞こえる。
(やっぱり忙しかったんだ。迷惑かけちゃったな...........。)
「なんか、すいません。折角お酒を楽しみに来られたのに...........。」
「いえいえ、特に家で待っている人も居ませんし、ゆっくり飲むつもり出来ているので、こんなのは迷惑に入りませんよ。」
「お優しいんですね。」
「いえいえ。よく意地悪だって、職場で言われてるんですよ?フフッ...。」
「そんな風に、見えないですけど、そうなんですか?」
「はい。そうなんです!」
「プッ!フフフッ!!面白い人。」
「何か心配事でもあったんですか?」
「え...?」
「とても素敵な方なのに、表情が浮かない。」
「面白い上に、口も上手いですね?」
「良かったら、タクシーが来るまでの時間、私に話して見ませんか?」
笑顔の中に、全てを見透かすような、強い眼差しが見え隠れする。
「でも、大した悩みじゃないので...........。」
「フフッ...大した悩みじゃない割に、随分とヤケ酒された様に見えますね?」
「情けないですよね...........。」
「確かに初めて会った、見ず知らずの他人に、プライベートな悩みを打ち明けるのは、躊躇する気持ちは分かります。でも、逆に今日限りの、赤の他人に話す方が、後腐れ無くて話しやすいと思いませんか?」