A・O・I
「あぁ...........確かに。」
「他言はしませんし、今日、それも、今限りです。この店を出たら私は忘れます。」
「今...........限り。」
「どうですか?」
タクシーを呼びに行った啓介も戻らない。
私は、目の前の不思議な紳士の誘いに、乗るしかなくなっていた。
「それじゃぁ...........少しだけ。」
「はい。どうぞ。」
いざ、どうぞと言われると、なんて話し始めたらいいのか、戸惑ってしまう。
「え~っと...........簡単にいいますと、私が子離れ出来なくて困ってると言うか...........25にもなっているのに、仕事で一週間家に帰って来ないだけで心配で。」
「そうですか。でも、25歳の息子さんがおられるとは、思いませんでした。凄く若く見えるので。」
「あぁ...........息子と言っても16歳の時に、父の知り合いから引き取ったんです。養子にはしてませんけど、息子だと思ってます。」
「あ~なるほど、そう言う事ですか...........。一ついいですか?」
「はい。」
「息子さんには、恋人は現在おられますか?」
「今回、初めて彼女が出来たみたいで。多分、その人の所に泊まっているんじゃないかと...........。」
「初めてなんですか?」
「いえ、私の勝手な憶測です。学生の頃からモテる方だと思うんです。家まで何人も女の子が訪ねて来たりするのは、しょっちゅうでしたし。もしかしたら、何人かと付き合ってたのかも知れません。でも、彼女として紹介された事は一度も無くて.........。」