A・O・I
「失礼ですが…荒川さん。本当は、分かっているんじゃないですか?」
「...........え?」
「私は、長い間仕事をしていて、こう思うんです。これだけは自分で気付くべきだと。私は人の気持ちを強制したくありませんから...........。」
「あの...........一体、何を言っているのか.......。」
「子離れ出来ないのは、本当に母としての愛ゆえですか?」
「それはっー」
「硝子っ!!ごめんっ!!遅くなった!!丁度入口の所で、取引先の常務と会っちゃってさ、中々離してくれなくて。あっ!タクシーもう来てるから。」
突然の割り込みに、呆気に取られて言葉が出ないでいると、啓介が私の体を支え起こした。
「ん?どうした?起き上がるの辛いか?」
「う...ううん。大丈夫。」
「そうか、じゃあ帰るぞ。」
「...........うん。」
啓介が私の荷物を取りに行ってくれる間、私は壁に寄り掛かっていた。
気を抜くと、蹌踉けてしまいそうで、しゃがみ込もうとすると、肩を優しく支えられた。
不意に優しい香りが鼻を掠めた。
落ち着く様な何かの花の瑞々しい香り。
「一体、自分は母親だと決めつけたのは誰?息子さんは、あなたを母親だと本当に思ってるでしょうか?」
「っ!!?」