呪われ姫と強運の髭騎士
「――キャッ!」
 
 薄闇の庭を滅茶苦茶に走って、とうとう何かの出っ張りに足を引っ掻けてしまった。
 
 前に倒れる瞬間――

「危ない!」
と、後ろから身体を支えてくれた腕にソニアは気付く。
 
 ほう、と安堵をつき、今、自分を支えてくれている人の方に顔を向けた。

「大丈夫? ソニア」
 
 甘くて優しく耳朶をくすぐる声――

「セヴラン様!」
 
 ソニアの足がしっかりと地についたことを確認すると、セヴランは手を離した。

「どうしてセヴラン様がここに?」
「急に走って広間から出ていったから、心配で追いかけてきたんだよ。やんごとない姫が一人で、しかも暗い中を闇雲に走ったら危ないよ?」
「ありがとうございます……もう、大丈夫ですから」
 
 その時、フワリとセヴランの指がソニアの目尻に触れた。

「大丈夫ではなさそうだけど? クリスに何か言われた?」
 
 ソニアは自分でも不思議だと思った。
 
 セヴランは、クリスとの様子を遠目で見ていたのだろう。
 
 だから逃げるようにその場を去った自分の姿をみれば、気になって追いかけてくるだろう――それが、この前の再会の見舞いの自分に、触れないようにしていたセヴランで。
 
 しかも、今夜は普通に自分に触れて転びかけたのを助けてくれて、こんな風に優しくされたら――
 
 ほどされてしまうに決まってる。

「セヴラン様……」
 
 せっかく引っ込み始めていた涙腺が、とうとう決壊してしまい、そのままセヴランの胸で泣き続けた。
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