呪われ姫と強運の髭騎士
「セヴラン、風呂にはまだ?」
 
 アニエスが風呂から戻ってきた。
 
 僕は彼女に見向きもしないで、窓から外を眺めながら答えた。

「大衆の風呂なんて。喧しくて不潔だ。入る気になれないよ」
「やかましくて不潔――ですか。よくご存じで」
 
 微かに侮蔑の含みが入っているのが分かり、僕は勘に障る。

「そう聞いてるんだ!」

 とアニエスに向かって怒鳴って、息を飲んだ。
 
 胸当てやブロワニューを脱いで、シャツにスパッツ姿と言う薄着の彼女。
 
 風呂上がりの彼女の身体から、微かに湯気が立ち上がっている。
 
 きっちり編み込んでいたおさげを解いた金髪は、まだ生乾きでしっとりと背中に流れている。
 
 瞳の紫はアメティスの騎士の名に相応しく、潤んで煌めいているように見えた。
 
 ――それに
 
 シャツを盛り上げる二つの双丘。

(案外、胸があるんだ……)
 
 思わず見惚れていると、気付いたのか、

「……な、どこを見ているのですか!  こんなもの見慣れているでしょう!」

 と両腕で胸元を隠し、プイッとそっぽを向いてしまった。
 
 ほんのりと頬を染めているのを僕は見逃さなかった。

「入らないのは勝手ですが、臭くなって好みの女性がいても逃げられても知りませんから」
 
 少々、いつもより柔らかな口調に聞こえるのはきっと気のせいじゃない。
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