【B】眠らない街で愛を囁いて


「違う。違うって。
 お祖母ちゃんには、ほら、耳鳴りとかする話してたでしょ。
 
 ずっと寝不足も重なってて、バイト先で倒れて入院してたの」



本当は入院してたなんて心配したくなくて伝えたくなかったのに、
これ以上、いらぬ詮索も想像もされたくないと告げる。



「入院?今は大丈夫なの?」

「退院したよ」

「治療費は足りたの?
 今月の生活費はあるの?」


入院の言葉に、お母さんは急に声色を変えて私を心配しているのが伝わってくる。



「えっと……助けてくれた人がいるの。
 ほらっ、お父さんの車で引っ越ししてた時、浜松で助けた人が居たでしょ?

 今の職場のビルで働いてる人らしくて、ほらっ、お客さんとして来てくれた時に、
 仲良くなってね……、倒れた時も居合わせて、何から何までお世話になっちゃった。

 治療費もその人のお兄さんがお医者様だから、今回はいいですよーって」



そう……何から何までお世話になっちゃった。


だからこそ……、その温もりを知ってもっと存在を感じたいって思ってしまう。



「まぁ、大変じゃないの。
 叶夢、その方にお礼をしなくてはいけないわね。

 連絡先は?」


お母さんに言われて、私は電話番号も交換してないことに気が付く。



「わかんない。いつも職場で会うから」

「そう。職場でちゃんと会えるのね。

 だったらお礼のお品とお父さんとお祖母ちゃんが作った野菜送るから、
 無理しないで生活するのよ」

「うん」

「お父さん、本当に今日連絡がなかったら仕事終わってからそっちに行くって
 凄く心配してたのよ。

 今日は清華【さやか】ちゃん覚えてる?
 アンタの2つ下の。そこのお祖父ちゃんの月命日だから今、お経上げに行ってるのよ。

 最近は田舎もお留守の時は鍵がかかる様になって、
 先方の都合をきかなきゃ、お経もあげにいけないのよ」って、愚痴をこぼすお母さん。


確かにうちの実家も留守の時だって鍵がかかってたイメージなくて、
近所の人とか、配達の人たちが勝手に玄関をあけて何かを置いて帰ってることもあったけど、
それはやっぱり物騒だよ。


お留守でも鍵が開いている家に上がり込んで、仏壇に手をあわせて月参りが出来てた
今までの方が、やっぱり違う気がする。


いいように解釈したら、平和過ぎたってことだったのかも知れないけど
言い方を変えれば、それだけ不用心だったってことだもの。



「お父さんも大変だねー。
 お父さんには後でメールしておく。

 明日からバイト復帰するから、もうきるね。
 今回は音信不通にして、ごめんなさい。

 おやすみなさい」



そういって電話を切ると今度はLINEを確認する。


LINEはに、怒涛のように織笑から連絡が入ってる。




「ちょっとちょっと、どうなってるの?
 今、千翔さまがお店に来て『叶夢ちゃん、昨日入院しました』って。

 叶夢ちゃんよ、叶夢ちゃん。

 そりゃ、叶夢が体調崩してる時も、千翔さんに助けてもらえるように焚きつけたけど、
 いつの間に、そんなに親しくなってたのよ?」


「病院はどう?
 
 今日も千翔さん来て、叶夢の様子教えてくれたよ。
 もう暫く、静養が必要なんだって?

 千翔さんが持ってきてくれた菓子折り凄すぎ。
 53階の高級レストランのお店の名前が入ってるの。

 もう雲上人って感じだよね。
 何もかも世界が違うって言うかさ。

 ちゃんと退院して復帰したら、聞かせなさいよ。
 叶夢のラブロマンス。

 勝負下着の相談ならちゃんとのるわよ。
 
 それに……ちょっとは、おしゃれに目覚めなさいよ。
 千翔さんが可哀そうよ」





っと、こっちもまぁ毎日、1日一回のペースで私がお休みしている間に、
コンビニで何があったかを報告してくれてる。



そんな千翔さんの気遣いを感じながら今日の1日を振り返る。



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