誰にも言えない秘密の結婚



始業時間10分前。


後藤さんたちが次々と事務所に入ってきた。


最後に来たのは西山さん。


私のデスクにスタスタと歩いて来ると、何も言わずに建築模型を手に取った。



「西山?吉田に何か言うことあるだろ?」



藤原さんが西山さんにそう言った。


それでも何も言わない西山さん。


イライラしてるのがわかる。



「夜中までかかってやってくれたんだぞ」



えっ?


夜中まで?


もしかして、藤原さん……。


私は藤原さんの方を見た。


“お前は何も言わなくていい”と、そう訴えてるように私の方を首を軽く左右に振り、笑顔を見せた。


どうして本当のことを言わないの?


私はあの後、帰って何もやってない。


そう言えばいいのに。



「あの、西山さん……」



本当のことを言おうとした時……。



「明ちゃん、コーヒー淹れてくれない?」



社長がそう言ってきた。



「あ、は、はい……」



私は席を立ち、キッチンに行く。


まるで私に正直に話させないようにしてるみたいなタイミングの良さ。


西山さんは私に軽く舌打ちをして自分の席に戻って行った。




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