ミツバチのアンモラル
――……
沈黙を破ったのは、
「華乃」
智也だった。
「華乃。俺はね――」
「…………なに?」
「――俺、華乃のこと好きだったよ」
「っ」
「っ、智也っ!!」
「……、兄貴に怒鳴られる筋合いはねえなあ」
そう言って、智也は私の手を引きながら圭くんのことを一瞥して、この場を立ち去ろうとする。けれど、足が、身体が動かない。
気まずいのか下を向いてばかりで何も言わない圭くんと、何故今なのかは頭を捻るけれどこんなこと冗談では言わない性格の智也。
色々どうしたらいいのか。けれどこのままここで散り散りになってしまうのはよろしくないとは感じた。
考えなくてはいけないことはあるのに、ちりちりとした痛みは増していき、なんだか視界が狭まっていく。
――華乃――
やがて身体の力が抜けて地面に崩れ落ちそうになる。
世界が終わっていくように目を閉じたのと同時に、優しく私を抱き止めてくれる誰かの声と、何かを言い争う声が耳に残ったのが最後で、私の意識は少しだけ途切れることとなる。
まぶたの裏に閉じ込めるように最後に見たのは圭くんの姿。ぐしゃぐしゃに後悔ばかりの表情で、それは、私があの事故から目覚めたときに見たそれと似ていた。
そんなぐしゃぐしゃでも圭くんのかんばせは王子様のようだと感嘆して、私は目を閉じた。
……――――――