ミツバチのアンモラル
――――――……
「悪ぃな。今はもう好きじゃねえけど」
目覚めて投げ掛けられた第一声はそれだった。
「あー……」
「んだよ。顔隠すなよ。照れてんのか?」
「……」
これでも、目が覚めた瞬間に見えたその顔と意識を失う直前に言われたことを瞬時に思い出して、どうしようかと考えたのだ……。
「それともなんだ残念か? 今も変わらず好きでいてほしかったとか」
「違うわっ!!」
あ、それは失礼な物言いだと思い直して訂正した。
「っ、てあ~……迷惑とかそんなんじゃなくて……その……」
目覚めて、布団から顔を出して引っ込めて、勢いでまた顔を出してまた引っ込めるという動作を経て、三十秒後、また顔を出した。
「もう、大丈夫か?」
ベットの脇、枕に近いところで椅子に座り、心配そうに私を見下ろす智也にひとこと、ごめんと添えた。
「俺もごめん」
「なんでよ」
「さっきのは、兄貴へのあてつけ。あんなやつ、とことん動揺すればいいんだ……どうせ何も変わらないだろうけど」
「圭くんをあまり苛めるものではないよ。麗しい兄じゃないか」
「おまえ……こんなときでも兄貴を庇うのな」
こんなとき――たしかに、こんなときだ。
訳のわからないことをあの女の人に囁かれ、私の愛する王子様はそこそこ乱れた裏側を持っていて。いや、裏だと思うのは私だけかもしれないけど。
否定をされなかったそれは、
「……圭くんが私のものじゃないなんて、誰かのものになってる瞬間があるなんて……私、解ってたから」
事実であることを、私はとうに知っていた。