ミツバチのアンモラル
普段は私に動じもしない智也は、こちらがやけに落ち着いているのが心底不思議らしい。目がキョドっている。
もっともっと、落ち込むと思っていたのか。私だって不思議だ。こんなに冷静でいられる自分が。
もしくは、お互いにそうなってほしかったとか。そうすれば、想いの深さを浮き彫りに出来たとしたら……。
仕方がない。
すとん――と、噛み合ってしまったのだ。圭くんのアンバランスさと。
そうして心配になる気持ちが、真っ先にきてしまった。
「兄貴はさ、ずっと前から、昔からそんな奴だったよ」
「……」
ぽつり、ぽつりと、智也は吐露していく。苦しげに。嘔吐しそうに紡がれるそれらは、ずっと溜め込んでいてさぞかし堪えていたのだろう。一端堰を切ったものは、なかなか止まってくれるものではなくて。
「特定の彼女は絶対に作らない。欲をどうにかしたいときだけ適当に誰かを利用する。…………華乃じゃない、華乃に似た女で」
放っておいても女の人は寄ってくる。圭くんはそんな彼女たちに非道な言葉を投げ掛けるのだそう。ただの代用なのだと。これきりにしか、なりえないのだと。
それでも、圭くんが必要とするときに、そういう彼女たちは絶えなかった。
「……中には、本気の人もいたんだろうな。本気で兄貴を好きで、もしかしたらずっと一緒にいられるかもってさ」
けれども、決してそんなことにはならなかった。
圭くんはあくまで、その場しのぎにしか扱ってくれない。王子様のかんばせで、甘く優しく微笑んだとしても。
「華乃を大事にするために。汚すわけにはいかないから……なんだとよ」
直接本人から聞いたのかは知らないけれど、智也には理解出来ないらしいそれを、何度も溜め息と共に吐き出していた。