偽りの婚約者に溺愛されています
「悪いが、今の君からなにを言われても、どうやら信じられそうにない。とりあえずは一旦、松雪社長の申し出を受けることにした。君は来月から、グローバルスノーに戻りなさい」
どう説明しても、社長が言う通り、信じてはもらえないだろう。
距離を置くしかないようだ。
「失礼いたします」
頭を下げると、そのまま社長室をあとにした。
桃華は嘘をついたわけではないが、腹立たしく思う。
彼女の思惑は、拍手を送りたくなるほどにうまくいったようだ。
夢子と俺を引き離す、一番確実な方法を選んだ。
廊下を歩きながら、天井を見上げる。
バスケットボール対決のあと、ジムの前で思わず君を抱きしめた。
離したくないのだと訴えた俺に、君はイエスとは言わなかった。
溢れ出る感情を持て余し、一緒にいたなら、なにをするか分からない自分が怖くなった。
彼女をその場に残し、逃げるように立ち去った俺の後ろ姿を、君はどんな気持ちで見ていたのか。