偽りの婚約者に溺愛されています
困っている君に、つけ入るように婚約者のふりをすることを提案した。お金を受け取り、さもそれが対価であるかのように。
彼女の目的を果たしても、俺は婚約を継続することを望んだ。
桃華の存在が、君の良心を苦しめている。
すべてを終わらせ、もう一度君と出会いたい。
なんのしがらみもない状態で、思い切り気持ちを伝えたいのだ。
「俺がいなくても、しばらくは大丈夫そうだな」
「え?」
もう一度君に出会うときには。
すべてを終わらせているはずだ。
「グローバルスノーに戻ることになったんだ。ササ印は、今月で辞める」
笑顔で告げた俺を見上げ、彼女は口を開いたまま絶句した。そんな彼女をじっと見つめる。
「商品化は……あの、これからで。特許の話も、まだ出たばかりで。松雪さんがいなくなるのは、とても困るし……」
しばらくしてから夢子は、オロオロとした様子で、ポツリポツリと話しだした。
彼女の頭をポンポンと撫でながら、微かに笑う。
「君は大丈夫。俺がいなくなっても充分にやれる。それにほら、俺みたいなのが横に張り付いてると、やりにくいだろ?俺は嫉妬深いからな」
わざと冗談まじりの言い方をした。
この程度のことは、なんでもないことだと思ってほしい。なんの障壁にもならないと。