偽りのフィアンセ


「どーゆうつもりで此処に居んの?」

静かな空間に少女の声が響いた。可愛らしい声だ。だけど……怒りを含んだ、とても冷めた声だった。

その声に、今まで敢えて目を反らしていた大人達と 、さっきまで俺の隣で退屈そうにあくびを漏らしていた弟までもが、面白そうな表情を浮かべ、そこへ視線を向けた。

いきなり自分に集まった視線に驚いたような顔をした女は、その言葉が自分に向けられたものだということにようやく気づいたようで、ゆっくりと振り返る。

直ぐ後ろに立つ少女は、そんな女を冷めきった目で見据えていた。

「サヤ」

そう優しく呼びかけ、カナメさんが少女の肩を抱いた。

「アイツ、カナメの娘?」

それを見ていた弟が、眉を跳ね上げて驚いたように呟いた。

俺と同様に此処に来ることが殆どなかった弟も、少女を見るのは初めてだったらしく、興味深い眼差しで少女を見つめている。

少女は肩に置かれたカナメさんの腕を振りほどくと、大きく一歩踏み出し、片手で押すように女を突き飛ばした。

倒れ込んだ女を、まるで汚いものでも見るような目で見 下ろした少女は、「パンツまで馬鹿丸出しかよ」と言い放ち、鼻で笑った。その言葉に、弟が小さく吹き出す。

「馬鹿丸出しのパンツって、どんなの履いてんだあの女」

「……マコト」

今にも声を上げて笑いだしそうな弟をたしなめたが、少女が父のことを『オッサン』だの『変態 』だのと揶揄するのを、周りの大人達が青い顔で見つめるなか、盛大に吹き出したのは……弟ではなく、カナメさんだった。

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