H ~ache~
(私が思うに…新宿店のマネージャーは店の金を横領、もしくは店の金で裏取引をしていた。
証拠はないけれど、店の売上を口座へ預けるタイミングや額が数か月前からおかしかった。
そして、何かが本部の人間にバレて昨日締め上げられた。そこへ私がたまたま居合わせてマネージャーを転がして気絶させた)
出勤中の電車の中で、昨日あったことを振り返っていた環だったが、本部の人間に、自分がグルだと思われたらどうしようかと不安になっていた。
おかしいと思ったけれど確証がなかったことと、むやみに人を疑いたくなかったために自分なりに原因をさがしていたら時間が経ってしまった。
(見つけたときに報告しておけばよかったのかな…)
オフィスの最寄り駅で降り、ため息をつきながら駅の改札を通った。
その日は上司や本部の人間に呼び出されるのではないかと憂鬱な気分で過ごしたが、誰からも呼び出されることはなく平和な一日を送った。
翌日も夕方までは平穏な時間がすぎ、高級クラブの姉妹店へ行く準備をした。
「タマちゃん、今日も外は雨よ?気を付けてね」
「ありがとうございます、紗和先輩」
4歳年上で何かと可愛がってくれる紗和に言葉を返してオフィスを出た。
(雨が強いな…)
週末に傘を買いに行こうと考えていたため、とりあえず家にあったビニール傘を持ってきていた環は、その傘をさし、高級クラブへと向かった。
「及川です。よろしくお願いします」
「資料とカギです」
サブマネージャーから資料を預かり、作業を始めるために部屋にこもった。
(今月も異常は無し。売上も…)
会計データを照合していると、部屋の扉が開いた。
(カギを締めたのに…誰?)
書類から顔を上げて部屋の入り口を見ると、背の高い男が立っていた。
一目で高価だと分かるスーツと靴。
環を見下ろす顔は整っているために冷たく感じられた。
(イケメンとか軽々しく言葉にできないような…美貌っていう言葉がしっくりくる。…でも、誰?)
「及川環か?」
低く響く声が環を呼び、環は頷いた。