未知の世界5
「おはようございます。」
『…あ、おはよう…ございます。』
白衣を着ている私を見て一瞬驚き、か弱い声で挨拶する。
まだ授乳が必要であろう子供は、母親が病室に寝泊まりして付き添っている。
母親は化粧も髪をとくこともままならないほど疲れ切っている。
確か…。南 ゆりちゃんのお母さん。
けいれんの治らないゆりちゃんは、救急車で一昨日から運ばれてきていたはず。
「南さん?お体はどうですか?」
『えっ?あ、あの、薬が効いてるみたいで落ち着いてます…。』
さらにか弱い声で話す。
「いえ、ゆりちゃんではなく、お母さんですよ。」
『えっ!?
私?私は…大丈夫です…。』
『大丈夫』と言う時こそ、人は大丈夫ではないことが多い。
大丈夫な人は自分の体を冷静に判断して、大丈夫じゃないところを言うことができる。でも、大丈夫じゃない人は、自分のことが見えていないから、『大丈夫』その一言で誤魔化そうとする。
「南さん、少しお部屋に行きましょうか。」
そういうとゆりちゃんのお母さんはゆりちゃんを抱えて、点滴台を持ち、私の後ろをついてきた。