未知の世界5
「おーい、きたぞー!」
さっきまでとは打って変わった声色と表情。その声を聞くとすぐに、子供たちから声が返ってくる。
「ちゃんと食ったかー?」
言葉遣いは変わらないが、親近感の湧く喋り方。
『先生は食べたのー?』
医局では誰も石川先生にこんな口を聞く人はいないのに。
子供たちは石川先生に慣れ親しんでいる。
『あ、かな先生でしょー?』
「もう名前を覚えてくれたのー?」
私が子供たちに合わせ答える。
『うん!隣の部屋のお兄ちゃんが、可愛いって言ってた。』
「あ、そうなの?それは嬉しいなぁ。」
なんて答えたらいいのか、自分を可愛いと言ってくれる人がたとえ子供でも、嬉しいものだ。
「え?俺は?俺は?」
すかさず石川先生が調子に乗って入って来た。
『シーン…。
誰もいませーん!』
と言いながら、少し嬉しそうな顔の女の子が話し出す。
するとみんなが一斉に笑った。
石川先生の周りには笑顔の子供たちばかりいる。医局や私といる時とは大違いだ。私といる時にもこんな顔をしてくれたらいいのに…。
なんてよそ事を考えていると、石川先生が一人ずつ話しながら聴診をしていく。
朝の回診で、眠くて嫌がる子供たちも、今の今まで笑っていたので、聴診にも快く応じてくれる。
そして一人一人としっかり会話して、体調を確認している。
通常なら小児科では、朝の回診に付き添っている親を通して、子供の様子を聞くが、石川先生は子供たちからも聞く。
子供たちの表現は、親でないと分からない表現もあるが、日頃から子供たちと話している石川先生だからこそそれができるようだ。
『あのねー。ここがトントンするの。』
「トントンは痛いのかな?」
『ううん。痛くはなくて、押されてる感じ。』
こんななかなか進まない会話だけど、親身になって話を聞いている。
そして全ての病室へ二時間近くかけて回った。