俺様社長と極甘オフィス
『藤野さん、ヘリの試運転をお願いしたいみたいなんだけど』

『分かりました』

 秘書と操縦士の仕事の両立はなかなか大変だった。なんたって秘書としては、ほとんど初心者だ。けれど、その合間にヘリコプターを操縦できるのは、すごく嬉しい。

 まだ社長ではなかった彼は、忙しくないときにはよく同乗してきた。なんたってヘリはB.C. Building Inc.のものだし。

 彼を乗せるのは妙に緊張するが、気持ちを切り替えて、集中して点検を行う。それが済んだらようやく離陸だ。コレクティブスティックを上に引き、ペダルをゆっくりと踏み込み機体を動かしていく。

 気を遣ってか、プロペラの音が意外と煩いからか、彼から私に話しかけてくることはあまりなかった。でも空の上で機体の中では彼とふたりだった。

『いやぁ、すごいね。いい気晴らしになったよ。藤野さんを秘書にしてよかった』

 ヘリコプターを降りて伸びをする彼の言葉に私はつい反応した。

『もしかして、そのために私を秘書にしたんですか?』

『さぁ?』

 意地悪い笑みを浮かべる彼を訝しげに見つめる。こうしてヘリコプターに乗りたいがためなのだとすると、そのおかげで私はとんでもない苦労をさせられていることになる。すると彼は少しだけ悲しそうに笑った。
< 12 / 100 >

この作品をシェア

pagetop