俺様社長と極甘オフィス
 落胆なんてするほどでもない。逆になんだか胸のつっかえがとれてよかった。そう、よかったのだ。変に勘違いしてしまう前で。彼は誰にでも優しいのに。

 最初に食事に誘われたときも、私を試す意味があったのだろう。そして私は見事に合格したのだ。随分と可愛くない態度をとってしまったことを思い出す。

 私を選んで秘書にしたのは、ヘリコプターの操縦ができて、気晴らしにもなるし、変に意識する相手でもないから、こじれることもない。

 それだけだ。それでも私は、少しだけ嬉しかった。どんな理由でも、選んでもらえたなら。彼に私自身を評価してもらえた言葉は本物だ。

 それから色々と吹っ切った私は、彼のサポートをしようと必死で仕事について学んだ。不動産関係の資格をとるのはもちろん、会社のことについても資料を読み漁った。ヘリコプターの免許をとるとき以上に勉強した気がする。

 でも、そのおかげで今の私は社長と秘書として良好な関係を築けている、と思う。仕事を的確にこなして、なにを言われても心乱されない。

 地味な格好のおかげで、意識されることもないし、意識しているとも思われない。これでいい。

 もう二年、まだ二年。それでも、やっとここまできた。だから壊すことなんてしない。それに、今は彼が社長になって、もうひとつ大きな問題を抱えているのだ。
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