俺様社長と極甘オフィス
 ここ最近、調べたもので思いつく限りの言葉を入れる。ディスプレイに平仮名が表記され、決定ボタンを押すも、うんともすんとも言わず、入力した文字が消える。

 どうやら今日も駄目らしい。闇雲に打ち込んでも無駄だ。私は大きくため息をついた。

「どうすれば、五十二階に行けるんだろ」

「随分、無理難題を押しつけられたものだねぇ」

 独り言のように機械に話しかけた言葉に、後ろから返事がある。振り向くと、田中さんが両手にカップをもって苦笑していた。

『私が死んで半年以内に五十二階にたどり着けなければ、B.C. square TOKYOの所有権を知人に譲る』

 前一氏が亡くなったあと、弁護士立ち合いのもと開封された遺言状にこんな文言が残されているなんて誰が想像したであろうか。

 冗談とも思えたこの条件は、前一氏の担当弁護士から譲渡の必要書類一式を見せられるまでにわかには誰も信じられなかった。

 社長の父である正一氏は、まともにはとりあわず、所有する財産からすると、惜しくはあるがこのビルにそこまで固執する必要はないという考えだった。現に、ほかに残された不動産などの管理で手一杯のようだし。

 弟さんは、会社の経営に関しては口を出すつもりは毛頭ないらしく、他の親族たちも微妙な反応だった。

 けれどただひとり、社長だけは違った。絶対に五十二階にたどり着いてみせると固く決意し、新社長に就任して仕事も忙しくなる中でも、合間を縫って五十二階への行き方を調べている。

「でもまさか、エレベーターにパスワードとはねぇ」

 田中さんが感心したような同情するような、微妙な顔でこぼした。淹れてもらったコーヒーを素直に受け取り、扉の前のソファに田中さんに勧められるままに私は腰かける。
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