俺様社長と極甘オフィス
「どうすればいいんですか?」

 私の表情とは対照的に社長は至極嬉しそうだった。

 結局、昼と同じように後ろから抱きかかえられるようにして社長と密着し、ソファに腰を下ろすことになった。こうして座ると、私はたしかに子どもみたいなのかもしれない。普段はあまり意識することはないが、体格差がよく分かる。

 それにしても、なにも言わないまま抱きしめられているのは、どうも気恥ずかしい。些細な衣擦れの音や息遣い、さらには心臓の音までが、いつもより大きく聞こえて、それが緊張をさらに煽った。

 沈黙に耐え切れず、私から言葉を投げかける。

「社長は犬でも飼われた方がよろしいと思います。できれば大型犬で」

「いいよ。藤野がいてくれたら」

 そう言ってさらに回された腕の力が強くなる。

「そうですね、世話いりませんし。お忙しいですから犬を飼っても世話が難しかったですね」

「そういう意味じゃないんだけど……藤野は犬好き?」

 なんだか、その尋ね方が子どもっぽくて、少しだけ緊張がほぐれた。なので素直に答える。

「はい。子どもの頃、ゴールデンレトリバーを飼っていたので」

「そっか。じゃぁ、やっぱり犬飼おうかな。で、藤野が家に面倒見に来てくれたらいいよ」

「どこまで私の仕事を増やす気ですか」

 やはり犬を飼うのを勧めるべきではなかった、と眉をしかめる。そこではたと思い直した。きっと今のは冗談だ。

「すみません」

「どうしたの?」

 突然の謝罪に社長の不思議そうな声が飛ぶ。
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