俺様社長と極甘オフィス
「俺の顔になにかついてる?」

 視線がばっちりとぶつかり、どうやら私は社長が視線に気づくほど、まじまじと見つめていたらしい。おかげで急いで視線を逸らす。

「いえ、すみませんでした」

「なに? 見惚れた?」

 からかうように言われ、私は反射的に否定しようとした。けれども。

 改めて社長の顔をじっと見つめる。大きい瞳は、女性の私から見ても羨ましい。端正な顔立ち、背も高くて、身に着けているものも彼のよさをきちんと引き立たせている。

 グレー生地のシャークスキンのスーツは、一歩間違えると野暮ったくなりそうなのに彼にはよく似合っていた。

「そうですね」

 さらっと告げて私は前を見る。彼は本当にすごい人なのだ。私が秘書なんて務めるのが勿体ないほどに。数歩進んだところで、隣にいた社長がいないことに気づく。慌てて後ろを振り向くと社長は手で顔を覆って項垂れていた。

「どうされました?」

「いや、もう。なんて言うか。なに、天然なの? 計算なの?」

 言われている意味が理解できずに、尋ね返そうとしたところで、社長は顔を上げて早足でこちらに歩み寄って来た。そして先を促すので、私たちはそれからとくに会話もなく管理室へ向かった。

 いつも以上に緊張するのは、社長が隣にいるからなのか、パスワードの候補にどこか確信があるからなのか。
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