俺様社長と極甘オフィス
 社長自身の話では、あまりそんな感じはしなかったが、美代子さんから見ると、どうやら違うらしい。長い髪を掻き上げながら美代子さんは続ける。

「このビルの五十二階にわざわざプライベートスペースを作ったのも、京一くんの誕生日を意識して、このビルを行く行くは彼に譲る気満々だったからだと思ってたわ。息子の正一さんはもちろん、孫の京一くんでさえ、前一さまが名づけ親だったらしいし」

「そういえば、たしか息子さんも……」

 思い出したように告げると、美代子さんは、そうなの!と力強く答えた。

「息子が生まれたときも、名前を提案されたのよね。結局、私が納得できなくて、聞き入れなかったんだけれど。そういう意味でも私は前の奥さんほど従順ではなかったのよね。でも、じょういちって、なんだかあの子の雰囲気に合わない気がして。漢字も指定されていたし」

「どんな漢字だったんですか?」

「譲るっていう漢字の左側が“ごんべん”ではなくて“のぎへん”の漢字に一よ。穣一。正一さんや京一くんと揃えたかったと言われたけれど、だったら、他の漢字や響きでもいいでしょうに、前一さまは頑なに譲ってくれなくて」

 前一氏はなにをそんなにこだわっていたのか。美代子さんの言う通り、一という漢字をつけて繋がりを持たせたかったなら、他の漢字でもよかったはずだ。

 けれど前一氏は読みも漢字も譲らなかった。そういえば、社長も同じようなことを言っていた気がする。

『京の字で“けい”って読ませることを譲らなかったらしい』
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