俺様社長と極甘オフィス
 震える指で最後の数字を押す。すると、今までうんともすんとも言わなかった機械が、ピッと音を立てて反応を示した。

「開い、た?」

 込み上げてくる衝動を胸に、急いで社長に連絡しようと携帯を取り出す。しかし、その手はすぐに止まった。

 今、社長はきっとお見合い中だ。大事な時間を邪魔するわけにはいかない。きっとお見合い相手の女性と一緒にいるのに。

 それでも私はボタンを押した。彼はいつも出られないときは留守番電話に接続するようにしている。だから伝言を残しておこう。

 案の定、コール音もなく電話は留守番電話サービスに転送された。ピーっという機械音と共に私は息を呑む。

「お疲れ様です、藤野です。お休みの日に大変、申し訳ありません。あのっ」

 そこで私の言葉が詰まった。逸る気持ちがあって連絡したものの、これは月曜日に出社してから報告しても遅くはないのではないか。

 この留守電を聞くのがいつになるか分からないし、返って気を揉ませてしまっても申し訳ない。五十二階のことも、もちろん重要だが、今の彼にとってはお見合いの方が……。

 そんなことを考えていると、指定された時間が来てしまい、自動的に電話が切れてしまった。しまった、と焦ってももう遅い。

 かけ直すかどうか迷いつつ、とりあえず一度、部屋に戻ろうとしたそのときだった。私の携帯が音を立てて、相手を見れば、社長からだった。条件反射ですぐに電話をとる。
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