俺様社長と極甘オフィス
 彼は泣いたらこんなふうに慰めてくれるんだ、と思うと胸が切なくなった。

「離してください。婚約者に悪いです」

 それを振り払いたくて、私はついに言ってしまった。すると社長は反射的に抱きしめていた腕の力を緩め、まじまじとこちらを見下ろしている。その顔には驚愕の色が浮かんでいた。

「え、なに? 藤野、結婚するの!?」

 こんなときになんの冗談を言ってるのか、と思って私はつい眉をつり上げてしまう。

「なんで私なんですか。社長のことですよ」 

「俺!?」

 冗談でもなく、本気で驚いている社長に、私も訳が分からなくなってきた。なので、正直に事情を説明する。

「今日、お見合いだって聞きました。いつもお断りするあなたが、今回は前向きに先方と会うことを段取りしている、と言ったのでてっきり……」

 おずおずと説明すると、最後まで言わせてもらえず、再び抱きしめられた。

「それって、つまり、藤野は俺が結婚すると思ったから泣いたってこと?」

「ちょっと待ってください、どうしてそういう結論になるんですか」

 いつもの調子でやりとりしながらも、社長がどんな顔をしているのか、この体勢では見えない。

「お見合いって言っても、したのは俺じゃないよ。高雅の方」

「倉木さんが?」

 私はつい顔と声をあげた。なんたって、私のもつ倉木さんのイメージでは、素直にお見合いするような人には思えないからだ。

 それに倉木さんには親しくしている女性がいたはずだ。どういうことなのかと尋ねようとしたところで、社長が機先を制する。
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