恋愛上手な   彼の誤算
「あ、相沢……」
「村本、お前こんなとこで迫るのはどうかと思うぞ。西本さんびびってない?」
「ち、違う、何言ってるんだよ、ただ食事にいこうって誘っただけで……」
「どうでもいいけどお前課長が呼んでたぞ」
「!お前それを早く言えよ……!」

そっと目を開けると慌てて給湯室を出ていく村本さんに相沢さんがにっこりと手を振っているのが見えた。そしてこっちに近付いてくる。

「大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」

反射的にそう答えるがまだ鳥肌が治まらずに身体を抱き締めるように腕を擦った。

「これあげる」
「え……」

差し出されたのは紙コップに入った茶色い液体で、立ち上る甘い香りにココアだと分かった。

「でも、これ相沢さんのじゃ」
「いいから飲みなよ。甘いもの飲むとほっとするから。クリープ入れると上手いよ」
「クリープって……」

ココアにクリープ。考えただけで甘過ぎる。
顔に出てしまったのか相沢さんがふ、と笑う声が聞こえた。

「あ、俺がココアにクリープ入れるって内緒ね。これ口止めも兼ねて。じゃあね」
「え、あの……」

そうこうしてる内にあっさりと相沢さんは去っていった。右手にはまだ温かいココアが残されている。

「甘い……」

一口それを飲むとほっと温かな甘さが口の中に広がった。いつもはブラックコーヒーしか飲まないがたまにはいいかも知れない。ゆっくり飲み終えてから給湯室を出ることにした。
鳥肌はいつの間にか治まっていた。
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