プラス1℃の恋人
 パソコンのモニターに映しだされた文字が、やたらと滑って読みにくい。

 けれど、なんとしてでもエアコンの効いている時間内に作業を終わらせなくてはならない。


 思い起こせば、かれこれ1週間ほど熱帯夜が続いていた。

 夜でさえも、外気が25℃を超えてしまう寝苦しい夜。
 昨日なんて、深夜の気温がとうとう30℃を上回ったそうだ。

 自宅ではエアコンをつけっぱなしで寝ているが、そのせいか、日中も体がだるくて仕方がない。

 通勤のあいだの、寒暖の差もきつかった。
 ショップやレストランなどの、やたらと冷えた建物のなかも、長時間いると体の調子が悪くなる。

 体温調節機能が、めまぐるしく変わる環境の変化についていかない。
 食欲もなく、水分もちゃんと取れているか自信がなかった。


 そういうことで、青羽の体調は最悪だった。

 でも上司が「今日中にやれ」と言うならば、死んでも終わらせなければならない。

 体調が悪かろうがそうでなかろうが、やるべきことはしっかりやる。
 それが給料をもらって働いている会社員の宿命なのだ。

 午後の陽ざしはエアコンのパワーを凌駕するほどで、容赦なくオフィスの室温を高めていく。
 ときおり濡らしたタオルで体をぬぐい、気化熱で体を冷やす。
 給湯室の冷蔵庫から保冷剤をもってきて、頬にあてる。

 卓上の扇風機は回っているが、あまり効果を感じられない。
 風量が強すぎると書類が吹っ飛ぶので、微風にしているせいだ。

 オフィスにいる社員は全員、汗をかきながらも集中して仕事をしている。
 みんな、エアコンが省電力モードになるまえに帰ろうと必死だった。
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