プラス1℃の恋人
 そしてついに、終業時刻を迎えた。

「お疲れ様でーす」

 内勤の社員が次々と席を立つ。
 そして、ファンファンと元気よく鳴っていた空調の音が止んだ。
 エアコンが省電力モードに切り替わったのだ。

 周りの人たちが帰り支度をしていくなか、いまだに作業が終わらず、青羽はキーボードを叩き続けていた。

 あと少し。
 翻訳は、まとめの部分に入っている。

 気力を振り絞って、青羽は最後の文章を書きあげる。


「終わったーー!」

 上書き保存したあと、印刷ボタンをクリックした。
 プリントアウトされるまではしばらく時間がかかる。

 青羽は席を立ち、休憩スペースにある自動販売機に飲みものを買いに行った。
 仕事に集中していて、すっかり水分を摂るのを忘れていたのだ。


「ここも節電なのか……」

 業務の終了時間に合わせて商品ディスプレイの照明が消える仕組みになっているらしい。

 青羽はコインを投入し、冷えた缶コーヒーのボタンを押した。

 もう嫌だ。さっさと帰る。

 それで、宮城の醸造所からサンプル品でもらった、新製品のペールエールを飲むんだ。
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