プラス1℃の恋人
 休憩室で冷たいコーヒーを飲んだあと、サウナ化したオフィスに戻る。

 すると、印刷物が出てくる複合コピー機の前に、のっそりしたクマみたいな千坂がいた。
 排出されてくる印刷物をその場でチェックしていたらしい。

 ひととおりプリントアウトが終わると、千坂は顔をしかめながら青羽のそばにやってきた。

「これはいかんな。使い物にならん」

「え、駄目ですか?」

「おまえは駄目じゃないと思ってるのか? 翻訳ソフトの文章をそのまま使ったような、おもしろみのない文章じゃないか。メーカーからの原文が固い文章だったのもあるが、いつものおまえなら、わかりやすくライティングできるだろう?」


 青羽は唇をかんだ。

 定時に帰りたかった。
 だから、やっつけ仕事でもなんでも、とにかく時間内に終わらせようと思った。
 どうせ青羽よりも、英語ができない人ばっかりなんだし。

 文章の推敲は、明日すればいい。
 書類の差し替えなんて、みんなやっているじゃないか。

 でも、そんな青羽の奢りと手抜きを、千坂はしっかり見抜いていた。


「どうした須田、おまえらしくもない」

 千坂の言葉がやさしくて、余計に悔しくなった。
 どうせなら、ガツンと叱ってくれればいいのに。
 そしたらこっちだって、「だったらエアコンの設定温度を下げてください!」と、環境改善を訴えられたのに。

 私は万能じゃない。
 しかも体調が悪いんだ。

 それに、余裕をもって仕事を配分するのが上司の仕事じゃないか。
 仕事を引き受けただけ感謝しろってもんだ。
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