プラス1℃の恋人
 この会社がまだB.C.square TOKYOに移転する前、千坂は営業部にいたそうだ。

 成績はトップクラスだったらしく、現在の取引先にも千坂が営業時代に開拓したところが多いと聞く。

 夕方の便で海外出張から戻ってきた営業部長も、「千坂に任せておけば大丈夫」と太鼓判を押していた。


 ホワイトボードのネームプレートを見ながら、青羽を叱咤した千坂の姿を思い返す。

「なにもしないうちから、だめだと決めてかかるな」

 あのひと言が、胸に響いた。

 いざというときに頼りになり、部下をちゃんと守ってくれる上司。
 でも、こうして名前を見るだけで苦しくなるのは、千坂が尊敬する上司だからという理由だけじゃないような気がした。

 以前は千坂に対して、仕事上の感情しか抱いていなかった。
 いまは片腕として、誰よりも近い存在でありたいと本気で思っている。
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