プラス1℃の恋人

【13】あの夜の続きから

 案内されたのは窓際の席だった。

 夜の街は、あいかわらずきらきらと輝いている。
 この景色だけは、去年とまったく変わらない。

「コース料理でいいか?」

「もちろんです。あ、飲み物は、うちの会社から卸した地ビールで」

「なんだ、ドン・ペリとか頼まないのか」

「目的が違いますから」

 青羽の向かいに座っている千坂も、同じ種類のビールをオーダーする。

 届いたビールはシャンパングラスに入っていた。
 泡はきめ細やかで、比率も完璧だ。
 乾杯、とふたりでグラスを掲げる。

「んまーい!」

 ビールなのにカクテルみたいで、本当においしかった。

 くーっと喉を鳴らす青羽を見て、千坂は「おまえにかかれば、高級レストランも居酒屋も一緒だな」と笑った。


 セールスプロモーション部の仕事のこと、ビアテイスターの試験のこと。
 話題は尽きない。

 千坂は会話のキャッチボールがうまかった。
 さすが、かつては営業のトップだっただけある。

 ここのところお局キャラに徹していた青羽も、千坂の前では年ごろのかわいいOLに戻ることができた。

 千坂の冗談に噛みついたり、すねたり、おなかの底から笑い転げたり。
 会社のなかでは決して見せない素顔を、思う存分さらけ出している。

 にこにこと青羽の話を聞いている千坂も、なんだかいつもより上機嫌に見えた。

 10も年上なのに、相変わらず堅苦しさを感じさせない。
 青羽が仕事を楽しめるのは、こんな千坂のおかげだと思う。
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