プラス1℃の恋人
 20時。残っていた連中も帰宅し、オフィスにいるのは千坂と青羽のふたりだけになった。
 さすがにもう、帰るように言ったほうがいいだろう。

 ――よし、景気づけにメシにでも連れてってやるか。

 そんなことを考えながら、休憩室の自動販売機で買ったイオン飲料を持って須田の席に向かう。

 茹でダコのように真っ赤になった須田は、千坂を見上げて目を丸くした。

「なんて格好をしてるんですか」

 驚くのも無理はない。
 千坂のいつもの残業スタイルは、シャツを脱いだタンクトップ姿なのだ。
 ただし、女性社員が残っているうちは大抵遠慮している。

「気にしないでおまえも脱げ」

 冗談のつもりで言ったのだが、須田はオフィスを飛び出した。
 さすがにセクハラで訴えられるだろうか。

 ――ま、そんときゃそんときだ。

 千坂は自分の席に戻り、ふんぞりかえってうちわを揺らした。


 しばらくすると、服を脱いだ須田がオフィスに戻ってきた。
 その姿を見て、今度は千坂が目を丸くする。

 反則だろう、これは。
 タンクトップの肩が紐になっているやつ、キャミソールと言ったか、そこから見えている鎖骨が非常に好みだった。
 出すぎるでもなく、肉に埋もれるでもなく、きれいなラインの鎖骨がほどよく盛り上がっている。

 そういえばこいつは、2年前もクールビズが始まったとたんにキャミソールを着てきやがったのだ。
 美味しそうな鎖骨をさらけ出し、オフィス中の男性社員の視線を集めた新人女子社員に、千坂は『キャミソール禁止令』を出した。

 こんなふうに色気を撒き散らされたのでは、業務に支障が出る。
 おもに俺の。
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