強制両想い彼氏
それからしばらく私たちはケーキを堪能しながら、他愛もない話に花を咲かせた。
「皐月くんの髪って毎日かっこいいけど自分でやってるの?」
「ん?あーうち兄ちゃんが美容師やってるから色々セットの仕方教えてくれんだよ」
「へぇーお兄ちゃん美容師なのいいなあ。なら髪切ってもらったりするの?」
「いや、髪はあんまり切らせたくねーんだよな。兄ちゃん短髪推しだからすげー短くしてくんの。長さ変えないでって言っても無駄。バッサリやられる」
「私いつも思うんだけどさ、美容室で「長さ変えないで」って注文する人なんなんだろうね。髪切りに来たのに切られたくないみたいな。なら髪切らなきゃいいじゃんってなるよね」
「それ兄ちゃんも言ってた」
幸せな時間は本当にあっという間で、ケーキはすぐに食べ終えてしまった。
「あーおいしかったあ!やっぱり雑誌に取り上げられるだけあるね!」
食べる前に撮った今は亡きおいしそうなケーキたちの写メを眺めながら、私はあることを思い付いた。
「あ、そうだ!このケーキの写メ、永瀬くんに送ろーっと」
その私の一言を聞いた皐月くんが、カシャンと大きな音を立てて、飲んでいたコーヒーをソーサーに置いた。
その音に驚いて顔を上げたら、眉を寄せて顔を険しく歪ませた皐月くんと目が合った。
「……なんで永瀬?」
さっきまでと違う、皐月くんの声じゃないみたいな低い声に、体がビク、と震えた。
「え、と……あのね、今日、永瀬くんにここに一緒に来ようって誘われてて……あ、なんか、誰かに優待券もらったらしくて!一緒に行く人いないから適当に私のこと誘っただけだと思うんだけど……!でもほら私今日皐月くんとデートの約束してたから断っちゃったの!だから!皐月くんに連れて来てもらったよーって自慢しちゃおっかなーって思……」