強制両想い彼氏

「俺と一緒にいる時に、永瀬の話すんじゃねぇ」


冷たく呟かれたその声に、背筋が凍りついたような気がした。


「……つーか、“俺とのデートの約束があったから誘いを断った”ってどういうこと?
なら俺との約束がなかったらお前は永瀬とここに来てたの?2人で?俺の許可も取らないで?」

「え……待って皐月くん、どうし……」

「答えろよ」


初めて見る、皐月くんの苛立った表情。
いつもの優しい笑顔からは想像もつかないくらい、冷たくて、暗い瞳。
本能で、口答えしたらダメだって解った。


「な、わけないじゃん!その時は皐月くんのことも誘うつもりだったよ!」


必死に満面の笑みを作って誤魔化せば、皐月くんは何を考えているのか分からない無表情のまま、「そうか」と呟いた。


「ケーキおいしかったな。そろそろ出ようか」


今までの表情が嘘みたいに、皐月くんはいつもの優しい笑顔でそう言うと、伝票を持って立ち上がった。


「あ、皐月くんお金……」

「いいよ、出させて。会計してくるから、お前は店の外で待ってろ」


皐月くんはにこ、と微笑むと、私の背中を優しく押して店の外に出るよう促した。


レジに向かう皐月くんの後ろ姿を眺める私の心臓は、未だに不快な早鐘を打ち続けていた。


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