強制両想い彼氏
ケーキ屋さんを出てしばらく歩くと、空はもうすっかり夕焼け色に染まっていた。
すぐ真上は暗い水色が紫色に霞んでいるのに、向こうは燃えているように赤い。
そんな空をぼんやり見上げて歩いていたら、くっ、と服を引っ張られた。
「ちょっと寄ってこ」
皐月くんはそう言って立ち止まったのは、とある公園だった。
割と大きめの公園で、子供向けの遊具よりはベンチの方が多い。
芝や木もしっかり植えられていて自然が多く、子供を遊ばせる場所というより、大人がゆっくり散歩する場所、という方がしっくりくる。
といっても、日の暮れかかった夕方に、わざわざこの公園にくるような人もいない。
広々とした公園に、私たち以外の人影は見当たらなかった。
私の手を引きながら、皐月くんは黙って公園の奥に進んで行く。
奥に進めば進むほど木々が茂り、街灯が少なくなっていく。
先が見えない薄暗い道が妙に不気味で、無意識に皐月くんの手をギュッと握っていた。
「怖い?」
そんな私に気付いたのか、皐月くんが薄く微笑みながら私を見下ろしていた。
「手、震えてる。……可愛いな」
皐月くんは私の手を優しく握り返すと、「もう少しだけ歩く」と小さな声で囁いて、更に公園の奥へと進んだ。
「ここならいいかな」
消えかかっている街灯が一本、ぼんやりとそこを照らしていた。
暗闇に浮かび上がるように置いてあるベンチ。それを覆い隠すように、周りの木々が鬱蒼と生い茂っている。
まるで妖しい森の中にいるような、そんな不気味な空間。