気付いた時には2人の君が・・・
帰り道
帰り道。僕は彼女を心配して一緒に帰ることにした。という口実のもとでもう少しだけ話をすることができる。
「そういえば、まだ名前聞いてなかった」
「桜野可憐です。」
「桜野さんか」
「はい・・・」
次に話すことが見つからず、不意にも沈黙が訪れる。何かを話さないと。どうしよう。長くなりすぎると話しづらくなっちゃう。
「桜野さんっていつも帰るのはやいよね」
なんとかして絞り出した会話口。でも、桜野さんに言われってハッと気づいた。
「なんで知ってるんですか」
失敗した。まさか毎日窓から見てるなんて思ってもないだろうな。
「その、窓から見てて多分桜野さんだろうなって思って」
「学校にいてもすることないですし」
「そっか、じゃあ僕と同じだ。僕も部活入ってないしすることないんだ。だからさ、あの、また一緒に帰ってもいいかな」
「…」
彼女は少しよろけた。心配して顔をうかがうと今まで固かった表情が少し和らいだ気がした。
「また会ったね」
「また、変わったんだ」
「そ、いきなり踏み込まれ過ぎて驚いちゃったのかな。あんまり人と話さないからあの子」
口を動かしながらも、手を動かし髪留めの位置を変えて分け目を反対にした。
「そうだったんだ、君はこっち側じゃない時の記憶はあるの?」
「うん、私はあの子の心の底にある願望みたいなものだと思うんだ。願いを叶えてあげるための」
「桜野さんの願いか」
「うん、だからあの子のこと見ていてあげて。よろしく」
「わかった」
僕は彼女の願いを聞き入れた。窓から見てたあの日から桜野さんが気になっていたから。なんとかしてあげたい。
「…」
彼女は首の力が抜け頭が下がった。しばらくして意識が戻る。
「…すみません」
「いいんだ、気にしてない」
「さっきの私が何を言っていたか気になるけど、その前に私でよければ一緒に帰ってください」
こうして、少しずつ彼女との距離は縮まっていく。
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