気付いた時には2人の君が・・・
保健室
 6限の終わりを告げるチャイムが鳴る。今日は担任の先生が出張でいなく、ホームルームがない。みんなが授業終わりにガヤガヤし始める中、僕は教科書をバッグにしまいとある場所に向かっていた。
 パタ、パタ、とカカトを踏んでる上履きで一律の音を奏で階段を下る。僕がやってきたのは保健室。なんとなく昨日の彼女がいるんじゃないかと思ってきてみた。
 ノックをして、部屋に入る。ドアを開けたところで保健室の先生がいるのが見えた。たしか、名前は保科先生だった気がする。そして、その先生の前には桜野さんがいた。
「昨日ぶりだね」
「昨日はありがとうございました」
「いいんだ、別に気にしてないから」
 本当は話をできたことが少し嬉しかったりもしたんだけど。
「今日はどうしたの?」
「気持ち悪くなったので、保健室で休んでました」
「そっか、まだ気持ち悪い?」
「いえ、もう大丈夫です」
「そっか」
 一通り話を終え短い沈黙につつまれる。僕も別によく話す方ではないから何を話せばいいか、いまいち思い浮かばない。すると、保科先生は
「桜野さん教室にバッグとか置きっぱなしだよね。取ってきたら?」
 と、一旦教室に戻るように促した。
「そうですね、荷物とってきます」
そういうと、ゆっくりと立ち上がり教室へと向かっていった。
 僕と先生の2人になったところで先生が
「あの子にも友達が出来たようでよかったよ」
 その表情はまるで母親のようだった。
「桜野さんはよく保健室に来るんですか?」
「うん、なかなか学校生活が上手くいかないみたいでね。辛くなったらここにきて私と話をしているんだ」
「やっぱり二重人格のせいなんですかね」
 僕の質問に対し、目を見開きあっけにとられたかのような顔をしていた。
「君はそんなことまで知っているんだね。そっか、やっぱりよかった。えっと何くんだっけ?」
「春野です」
「春野くんか。じゃあ春野くん、桜野さんと仲良くしてやってくれ。きっと彼女は今までこの世界におびえて生きてきたと思うんだ。自分だけが周りと違う。人は周りの人と激しく異なるのは嫌がるからね。彼女にはそれが耐えられなかったんだろう。そんな彼女と仲良くしてやってほしい。」
 僕がなんと言えばいいか迷っていた時、“ガラガラ”と扉を開ける音がした。
「取ってきました」
 片肩にバッグを提げた桜野さんが帰ってきた。
「戻ってきたか。まぁ具合も良くなったところだし、2人ともそろそろ帰りなさい」
 そういうと、僕たちを強引に保健室の外まで連れ出し、早く歩くよう背中を軽く押す。
「春野くん頼んだよ」
 先生が僕の耳元で小さくそうつぶやいた。
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