そろそろ恋する準備を(短編集)
選んで良いと言われても……。見たところこの店は、マイナーな映画が多いようだ。種類分けもサイコやゴシック、モダンやカルト、スプラッタにコズミックと……。ホラーばかりじゃないか! とつっこみたくなる。
アクションやSF、ファンタジーもあるようだけれど、ごくわずかだった。
きっと店主の趣味なのだろう。
こんなに偏った趣味の店主とは、一体どんな人なのだろう、と思っていたら……。
「透悟くん久しぶりだねえ」と、奥からダンディーな男性が顔を出す。なんだか見覚えのある顔だった。一体どこで見たのだろうと考えてみると、ついさっき見たのだと思い出す。
あれだ。店内で流れている、おすすめの映画を紹介する映像。驚くほど棒読みの男性とこの店主は同一人物だ。B級感が溢れていたけれど、自作の映像なんだ……。
感心していると、ダンディーな男性はわたしに気付いて「透悟くんの彼女?」と、にやにやしながら聞いてくる。
「違います!」「そうだよ~」
わたしの否定と、朝比奈先輩の肯定が見事に被って、ダンディーな男性が綺麗な仕草で「ふふ」と笑う。
「違うけど、そうなんだね」
マイナーなホラー映画ばかりを集めたビデオ屋の店主。どんな人かと思ったら、笑顔が素敵なダンディーさんだったらしい。
「はるちゃんってば、相変わらず強情なんだから」
そこまで強情ってわけではないけれど、彼女ではないと言い切れる。この一年、セクハラはされても、告白はされていない。わたしからもしていない。ならわたしたちは、ただの先輩と後輩だ。
「じゃあこのあと一緒にこの映画観ようよ」
「お断りします」
「どうして?」
「ホラー苦手なんですってば」
「そんなに怖くないよ?」
「だとしても苦手なんです」
「強情だなあ。そうだ梅さん、庭貸してもらってもいい?」
かなり親しいのか、朝比奈先輩はダンディーな店主にそんなお願いをして、店主も「いいよー」なんて軽い感じでオーケーした。
「でも何に使うの?」
「強情なはるちゃんを説得するの」
わたしが強情だとすれば、朝比奈先輩は相変わらず唐突だと思った。ころころ変わる話の展開に、たまについていけないときがある。